わたしの弟は
わたしの好きな男は
戦場で死ぬだろう

大げさすぎると嘲笑う奴らもいるだろう
でも タガが外れたらあっという間さ
息せききって戦に向かう
次は塵ひとつ残らないだろう

国会が燃えた夜 ドイツのインテリたちはみな
こんなはずじゃなかったと言った
手には手錠がかけられていた
目を見開いたときにはもう
額に銃弾がめりこんでいた

少しばかり鼻のきく連中は おなじ頃
スイスに金を送り 国境を越えていた
夜露をしのげる ほんの片隅を求めて
身ひとつで 世界中をさまよった

戦場では 手足のついた肉塊が
たがいに打ちあい引き裂きあうのを
仲良く手をつないだ肉屋たちが眺めていた
爆音にまぎれて金を数える音がする

考えすぎだと呆れる奴らもいるだろう
でも タガが外れたらあっという間さ
息せききって戦に向かう
滅びりゃいいんだこんな国


 ***


父親がちょっとかわった思想を持っていて
もうすぐ大戦争が起こるだの天変地異が起こるだの
小さい頃から ろくなことを聞かされなかったので
なんとなく 生きてるうちに一度や二度は
戦争に巻き込まれるんだろうなぁと思っていた
し、思っている

とはいえ今の世の中のながれを どこか諦めてしまっているのは
そのせいばかりでなく ただの無責任と無気力なのだし
「こんなはずじゃなかった」も「こうなると思ってた」も
何もしなかったという点では一緒だろ
憲法があろうがなかろうが
口では高尚なことを言ったって
自分に火の粉が降りかかるまで
隣の火事にもお構いなしさ

諦めている自分、拒否しない自分、虚無と破滅願望
嫌気がさして この話はおしまい
世界を巻き込む問題ですら
自我のミクロコスモスのなかに終始してしまう

ただその範囲をもう少し広げて
家族や友達や あいつやそいつのことを考えたとき
一晩中わたしは泣いた
正体もない国なんか勝手に滅びりゃいいが
君らが滅びるのはだめだ

いとしいもの まだ見ぬいのちのことを考えたとき
この凝り固まった喉の奥からも
初めて声が上げられると思った